研究内容紹介 大型低温重力波望遠鏡KAGRA KAGRA(LCGT)は岐阜県神岡の地下サイトに一辺3km、全長6kmのL字型巨大レーザー干渉計を建設し、宇宙からの重力波を検出しようとするプロジェクトです。神岡鉱山地下の静寂な環境の中に建設することで地面振動による雑音を軽減し、鏡を20Kの低温に冷やすことで熱雑音の低減を図ります。 安東研究室ではKAGRA干渉計の設計や低温接合などのR&D作業に関わっています。 スペース重力波アンテナDECIGO DECIGOは基線長1000kmのファブリペロー型レーザー干渉計を宇宙空間に建設し、0.1Hzから10Hzの周波数帯を狙う計画です。地上検出器であるKAGRAの次の将来計画として推進されています。 安東研究室は、DECIGOに向けた様々なR&Dに参加しています。 ねじれ型重力波検出器 TOBAとは、2本の棒状のテストマス(重力波の影響を受けるもの)を持った、低周波数帯に良い感度を持つ重力波検出器です。 現在は、Phase-III TOBAとしてプロトタイプ3号機を開発しています。 機械光学系における巨視的量子現象 質量の大きな物体は重ねあわせ状態となりうるのでしょうか。プランク質量以上のスケールで量子力学的な重ねあわせ状態が観測されたことはありませんが、これは外部環境との相互作用に起因するものなのでしょうか、それとも未知の量子デコヒーレンス(例えば質量由来の重力デコヒーレンスなど)が存在するためでしょうか。このような問いに答えるべく、私たちはこれまでにない実験構成を用いて、鏡とレーザー光との相互作用を利用した機械光学系実験に取り組んでいます。究極的には、mgスケールの鏡の重ねあわせ状態を実現し、その振る舞いを観測することを目指しています。 ねじれ振り子型実験 ハイゼンベルグの不確定性原理によって、観測によるback-actionから生じる測定限界が存在します。レーザー干渉計型重力波検出器においてはプローブとして使われている光の輻射圧力がback-actionを生みます。これは重力波検出器の将来的な測定限界となる事が予想されているため、厄介な”雑音”として知られています。しかしその反面、光のback-action自身を精度良く観測することは、上述のような機械光学系を利用した重ねあわせ状態実現の第一歩となります。つまり、back-actionは単なる雑音ではなく重要な”信号”としての側面もあるのです。
現在、プランクスケール以上の振動子においてこの"量子輻射圧揺らぎ"を観測した例はありません。安東研究室ではねじれ振り子の両端で光共振器を構築しその回転モードを測定することで、世界初の巨視系における輻射圧揺らぎ観測を目指しています。ねじれ振り子には、低い共振周波数による低熱雑音性、古典的な雑音は並進モードのみに寄与し、回転モードには現れないといった大きな強みがあります。 光学浮上型実験 レーザー干渉計による巨視的量子力学の検証に向けては、鏡の機械的懸架系から導入される熱雑音(=外部環境との相互作用)が大きな問題となっています。そこで、この問題を回避する手法として、機械的方法ではなく、光の輻射圧のみを用いて鏡を支持する光学浮上が提案されています。 安東研究室では、1つの鏡を上下から2つのFabry-Perot共振器ではさむサンドウィッチ型光学浮上という新しい光学浮上の構成を提案しました。サンドウィッチ型構成では、鏡に入射する光を2本にできるため、これまで提案されていた手法に比べシンプルな構成で鏡の浮上を実現できます。現在は、この構成によるmgスケールの鏡の安定浮上の実験的実証に向けた研究を行っており、最終的にはmgスケールの鏡の量子性の検証やレーザー干渉計の量子雑音低減技術の実証を目指しています。 光速不変性の検証実験 アインシュタインの特殊相対性理論は光速不変の原理を基礎としています。この光速不変の原理は現代では電磁気学のローレンツ不変性として理解され、全ての物理学を支える最も基本的な対称性の一つになっています。しかし、近年の量子重力理論の研究や宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測から、わずかにローレンツ不変性が破れている可能性が示唆されており、より高精度な実験による検証が重要となってきました。 安東研究室では最先端のレーザー干渉計技術を用いて、この光速不変性の検証実験を行なっています。特に、これまでのレーザー干渉計では検証が難しかった片道光速の等方性に着目し、新しいタイプの光リング共振器を開発しました。この光リング共振器を用いて、行きと帰りの光速にずれがないことを検証しています。現在までに光速の相対的なずれが10-14以下であるという世界最高精度での検証に成功しました。
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