量子オプトメカニクス

 質量の大きな物体は重ねあわせ状態となりうるのでしょうか。プランク質量以上のスケールで量子力学的な重ねあわせ状態が観測されたことはありませんが、これは外部環境との相互作用に起因するものなのでしょうか、それとも未知の量子デコヒーレンス(例えば質量由来の重力デコヒーレンスなど)が存在するためでしょうか。このような問いに答えるべく、私たちはこれまでにない実験構成を用いて、鏡とレーザー光との相互作用を利用した機械光学系実験に取り組んでいます。究極的には、mgスケールの鏡の重ねあわせ状態を実現し、その振る舞いを観測することを目指しています。

 ハイゼンベルグの不確定性原理によって、観測によるback-actionから生じる測定限界が存在します。レーザー干渉計型重力波望遠鏡においてはプローブとして使われている光の輻射圧力がback-actionを生みます。これは重力波望遠鏡にとって厄介な”雑音”として知られています。しかしその反面、光のback-action自身を精度良く観測することは、上述のような機械光学系を利用した重ねあわせ状態実現の第一歩となります。つまり、back-actionは単なる雑音ではなく重要な”信号”としての側面もあるのです。現在、プランクスケール以上の振動子においてこの"量子輻射圧揺らぎ"を観測した例はありません。安東研究室では、このレーザー光の量子輻射圧揺らぎを高精度で観測することを目指しています。そのため、以下の2種類のアプローチを試みています。

ねじれ振り子型実験

 ねじれ振り子は微小な力に対する感度が極めて高久、歴史的にも重力などの様々な微小力の測定に用いられてきました。その利点を活かし、安東研究室ではねじれ振り子を用いて、世界初のプランク質量以上の巨視系における量子輻射圧揺らぎ観測を目指しています。具体的には、ねじれ振り子の両端で光共振器を構築し、その差動変位から回転モードを測定します。本手法には、ねじれ振り子の低い共振周波数による低熱雑音性、古典的な雑音は並進モードのみに寄与し、回転モードには現れないといった大きな強みがあります。

ねじれ振り子鏡

光学浮上型実験

 レーザー干渉計による巨視的量子力学の検証に向けては、鏡の機械的懸架系から導入される熱雑音(=外部環境との相互作用)が大きな問題となっています。そこで、この問題を回避する手法として、機械的方法ではなく、光の輻射圧のみを用いて鏡を支持する光学浮上が提案されています。

 安東研究室では、1つの鏡を上下から2つのFabry-Perot共振器ではさむサンドウィッチ型光学浮上という新しい光学浮上の構成を提案しました。サンドウィッチ型構成では、鏡に入射する光を2本にできるため、これまで提案されていた手法に比べシンプルな構成で鏡の浮上を実現できます。現在は、この構成によるmgスケールの鏡の安定浮上の実験的実証に向けた研究を行っており、最終的にはmgスケールの鏡の量子性の検証やレーザー干渉計の量子雑音低減技術の実証を目指しています。


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