背景 : 干渉計型検出器の観測帯域では、原理的に避けられない雑音、鏡の熱雑音が存在する。これは、干渉計を構成する鏡が熱浴に接していることにより熱振動し、光路長を変動させる雑音である。その振幅は非常に小さいものであるため、その研究は理論的なものや間接的な測定実験に限られてきた。鏡の熱雑音の直接測定は、干渉計型検出器の開発においての必須の課題であると共に、揺動散逸定理のより詳細な検証という物理的な意義も持つ。 そのため、干渉計型検出器を模した実験室レベルの干渉計を構築し、鏡の熱雑音を、広帯域な周波数領域において直接測定する実験を行うこととした。
原理 : 測定の原理は、周波数安定化されたレーザによって、二つの短基線長Fabry-Perot 共振器(test cavity) の鏡の熱雑音を測定するというものである (図18)。レーザ光源は、その周波数が固定光共振器の長さに対して安定化され、test cavity に入射される。Test cavity はそのレーザ光に対して位置が制御され、変位に敏感となる共振状態に置かれる。共振器長を短くすることにより、レーザ周波数雑音の影響を受けにくくし、且つ、熱雑音を大きくすることができる。また、等価な二つの共振器の変位信号を引き算することで、同相に働く他の雑音を除き、無相関な鏡の熱雑音の信号を得ることが可能となる。
実験 : ここで直接測定を試みたのは、これまでに鏡の熱雑音として予言されていた、基材のBrownian noise, thermoelastic noise コーティングの Brownian noiseの3つである。Brownian noiseは材質の中に均一に分布しており、多くの場合一定と考えられるバックグラウンドの機械損失に由来する。Thermoelastic noiseは、熱弾性効果による機械損失に由来し、熱力学と弾性体力学からその損失の大きさが正確に予言される。これらは、鏡の機械的な特性や熱的な特性によって振幅が決まると考えられる。そのために、3つの鏡材料、光学ガラスBK7、フッ化カルシウム、溶融石英を用意した。
結果 : 本実験では、約100Hzから100kHz の3桁に渡り、鏡の熱雑音を測定することに初めて成功した。それにより、鏡の共振周波数から離れた帯域での熱雑音を直接理論と比較することが可能となった。測定された熱雑音は、理論より計算されていた熱雑音と一致していることが確認された。図19にBK7 で測定された熱雑音を示す。このような広い帯域で機械系における揺動散逸定理が実験的に検証されたのも最初である。世界最高レベルの高い感度によって、鏡の共振付近での熱雑音も直接測定された。今後はこの干渉計を、検出器に導入する鏡の熱雑音を直接測定するテストベンチとして用いていく。
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