このプロジェクトでは, 10~10kHzにおいて安定なsqueezed vacuum(スクイーズされた真空場)の生成を目指す。 sqeezed vacuumを利用することでレーザー干渉計型重力波検出器の量子雑音を下げることができる[1,2]。
レーザー干渉計型重力波検出器の検出感度は, 最終的には量子雑音によって制限される。 量子雑音はハイゼンベルクの不確定性原理によって不可避の雑音であるため, 非常に厄介な雑音の一つである。 そこで, 量子雑音を減少させる1つの方法として, 干渉計に混入する真空場を, 電場の位相または振幅の揺らぎを小さくした真空場に置き換えることが提案されている[1]。 このような真空場をsqueezed vacuumと呼ぶ。
将来, 大型重力波検出器において上述の手法を適用し, 散射雑音を減少させることが 計画されている。それに向けてまず, プロトタイプ重力波検出器において上述の手法の検証実験を計画している。 散射雑音はレーザー光のパワーを増加することでも減少できるが, それに伴ない様々な技術的な困難も大きくなる。 しかしsqueezed vacuumを用いることで, レーザーパワーを増加することなく散射雑音を減少することができる。 これを実現するには, 重力波検出器への応用では, その検出帯域である10Hz-10kHzの周波数領域において安定なsqueezed vacuumの生成が必要である。 そのために, コヒーレントコントロールと呼ばれる手法によるsqueezed vacuumの制御[3]を計画している。
squeezed vacuumを生成するために, 第2次高調波発生やその逆過程であるパラメトリック増幅といった 2次の非線形過程を利用する。これは, 大きな非線形光学定数を持つ結晶の性質を利用したものである。 現在はSHG, OPOの設計を終え, 実験の準備を進めているところである。
本研究で製作するsqueezed vacuum generator(squeezer)の概要を下図に示す。 波長1064nmのレーザー光を用い, squeezed vacuum生成用, ホモダイン検波のための 参照光用, コヒーレントコントロール用の3つに分岐させる。 また, second laserからの光によりOPOのcavity長の制御を行う。
下図は, 設計したsqueezerによるsqueezed vacuumのスクイージングレベル, アンチスクイージングレベルを周波数 ごとにプロットしたものである。
媒質中に光が入射すると分極が誘起される。光の電界振幅の小さな場合は振幅に比例した分極密度が生じる。 しかし, レーザー光のようにパワー密度の大きな光電界に対しては, 比例関係が保たれなくなる。 電界振幅の2乗に比例する分極が支配的となるような場合, 入射するレーザー光の周波数を操作することで様々な周波数変換が可能となる。 例えば, 単一の周波数のレーザー光を入射すると2倍の周波数の光が生じる。これを第2次高調波発生(seccond-harmonic generation, SHG) という。また, その生成装置のことをsecond-harmonic generator (SHG)と呼ぶ。 他にも, 異なる2つの周波数成分からなる光を入射すると, 両周波数の和や差の周波数をもつ光が生じることも分かる。 これらは, それぞれ周波数上昇変換(up-conversion), 周波数下降変換(down-conversion)と呼ばれる。 どちらの変換が生じるか(もしくはどちらも生じないか)は運動量保存に相当する位相整合条件によって決まる。 従って, 異なる2つの周波数成分からなる光を入射すると, 3つの波の混合が生じる。これを パラメトリック相互作用(parametric interaction)と呼ぶ。本研究では, optical parametric oscillator (OPO)と呼ばれるものを用いてsqueezed vacuumの生成をする。
[1] Carlton M. Caves, Phys. Rev. D, 23 (1981) 8
[2] H. J. Kimble, Y. Levin, et al, Phys. Rev. D 65 (2002) 022002
[3] Henning Vahlbruch, Simon Chelkowski, et al, Phys. Rev. Lett, 97 (2006) 011101
[4] Carlton M. Caves, Phys. Rev. Lett, 45 (1980) 75