このプロジェクトでは、究極の周波数安定度を持つレーザー光源の開発を目指す。 高安定なレーザーは重力波検出器にとって必須となるだけでなく、光格子時計等の 光周波数標準の進展にも重要な役割を果たす。
本研究では新世代の光周波数標準として期待される光格子時計の限界性能へ挑む ために、その鍵となるプローブレーザーの周波数安定度を従来より二桁向上させ ることを目指す。現在、光格子時計の周波数安定度は、原子集団に対する測定の 量子揺らぎよりも、プローブに用いられるレーザーの安定度によって制限されて いる。そのため、現在得られている周波数安定度は光格子時計の原理的性能を大 きく下回ったものとなっている。そこで本研究では1秒間のアラン分散で 10^-17という安定度を持つプローブレーザーの開発を行う。我々は低温重力波検 出器の開発で得られた低振動低温環境実現技術を活用し、低温サファイア光共振 器によって、従来周波数安定化の壁であった熱雑音を低減し、目標達成を目指す。 このようなレーザーを用いることで、約100秒という極めて短時間の積分で光格子 時計の理論的性能である10^-18の安定度が実現可能になる。
本研究では5K以下まで冷却されたサファイア製光共振器を製作する。この共振器 にSr光格子時計に用いられるプローブレーザー(波長698nm)をPound-Drever-Hall法で ロックすることによって、周波数安定化を図る。周波数安定度の評価を行うため には二台の安定化レーザーの相対変動を測定する必要があるので、このシステム は二台製作する。サファイア共振器の冷却には重力波検出器用に開発された低振 動の冷凍機を用いる。地面振動の影響を避けるために、共振器は振動の影響をキャ ンセルする特別な支持法で保持され、熱膨張による長さ変動を抑えるために温度 安定化される。
本研究で製作する周波数安定化システムの概要を下図に示す。プレ安定化レー ザーの周波数と光共振器の共振周波数はPound-Drever-Hall(PDH)法によって比 較され、その差が周波数アクチュエータにフィードバックされる。この制御に よってレーザーの周波数安定度は低温光共振器の長さ安定度と同等になる。
半導体レーザー(ECDL)である。ECDLの自然な線幅は大きいので、そのままでは高 フィネスの低温光共振器にロックするのが難しい。そのため、プレ安定化を行う。 具体的には、リング型光共振器を透過させて空間モードのクリーニングと周波数 プレ安定化を同時に行う。また、光の強度雑音は周波数制御に対する雑音になる のみならず、低温光共振器の内部ロスを介して温度揺らぎを発生させる。そのた め、プレ安定化レーザーでは強度安定化も行われる。プレ安定化レーザーの周波 数は、光変調器を用いた周波数アクチュエータによって可変とする。
に、低振動低温真空槽内に設置される。真空槽内は低温重力波検出器用に開発 された特殊な低振動パルス管冷凍機で冷却される。また、冷 却ヘッドと共振器は高い熱伝導を持ちつつ振動の伝達を抑えた、純アルミ製の ヒートリンクで接続される。外部からの熱輻射流入を防ぐためにレーザー光は 赤外線遮断型の窓板を通して導入され、直接光共振器を見込まないように迂回 される。これらの低振動冷却技術は連携研究者鈴木、三代木によって開発され、 すでに低温プロトタイプ重力波検出器CLIOにおいて有用性が実証されている。
イア製の高反射率鏡をオプティカルコンタクトすることで製作される。スペーサー の形状及び、支持方法のデザインは、振動と共振器長の変化のカップリングを決 めるため慎重に行わなければならない。
光共振器は温度変動を抑えるために多重の熱シールドに囲まれた上で、アクティブ 制御による温度安定化がなされる。要求される温度安定度は1Hzにおけるスペクト ル密度で$1\mathrm{nK}/\sqrt{\mathrm{Hz}}$であり、温度安定化システムの設計 も本研究には重要である。
になるので、その安定度を評価する唯一の方法は独立な安定化レーザーを二台用 意し、それらのビートを取ることである。そのため、本研究では同じ安定化シス テムを二つ製作する。
プロットしたのが図である。これらの雑音から予想される アラン分散は図のようになり、1秒で10^-17が達成される。 雑音スペクトルを見ると、0.1-10\,Hzの全帯域で振動起因の弾性変形による共振 器長変動が支配的な雑音となっている。この雑音をさらに低減するオプションと して、LCGT向けに開発中の低温能動防振システムを導入することが考えられる。 これは、Hexapod支持された六自由度制御可能なステージと低温動 作可能な加速度計を組み合わせて地面振動をフィードバックで打ち消すものであ り、ヒートリンクを通じて伝わってくる冷凍機の振動も打ち消すことができる。 コーティング熱雑音を測定する際は、15Kまで昇温し、ビーム径を絞ることで熱雑 音レベルを地面振動雑音より大きくする。
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