計画研究ウ : 低温鏡の開発



       [研究組織] 

  氏名 所属 ・職 専門 役割分担
代表 黒田 和明 東京大学・宇宙線研究所・教授 重力波宇宙物理学 研究統括・推進
分担 田中 正義 神戸常盤短期大学 ・ 教授 原子核物理学 宇宙線と低温鏡の相互作用の研究
分担 Colin T Taylor 学術振興会・外国人特別研究員 重力波実験 熱雑音計測




   [研究の概要と目的]


 重力波レーザー干渉計の感度向上のために鏡と鏡懸架の熱雑音をそれらの極低温化により低減することが研 究目的である。 これまで KEK 低温工学センターと共同で低温化に関する研究を行ってきたが、基礎的な問題 はこれまですべて解決できた。 すなわち、鏡材料はサファイヤが最適であり、 これをサファイヤファイバーで吊るす構造をとれば、発熱を伴う鏡の温度を維持できかつ機械的損失も増加させることなく干渉計に応用 する際に必要な性能を満足することを見出した。

 これまで世界中で入手できるサファイヤの単結晶の光学的損失は平均的に 90 ppm/cm であり、LCGT で目標とする感度を達成するにはこれを 3 分の 1 から 5 分の 1 に減らすことが必要である。 その損失は、主として酸素原子の欠陥からきているという予想があるものの未確認であり、 また別の要因である可能性もあるが、これまでこのような観点からなされた研究が少ないため、 一旦本格的な研究に着手すれば、早い段階で 高品質の結晶が得られる期待もある。

  また、これまで高い精度で研磨技術が開発された人工石英材料と異なり、 サファイヤの研磨 ・ 成膜については未知の部分もあり、工学的な側面からの研究が必要とされる。 ここでは、この低温鏡の素材であるサファイヤの高品質化、研磨、成膜に関する研究を重点的に行う。

 これまでの研究で (1) 低温下でのサファイヤ鏡による光学的損失を計測する技術を確立した (2) サファイヤ鏡に予想される熱レンズ効果を評価したことが、サファイヤの光学的品質を評価し、 改善するための本格的研究を進める基礎になっている。研究としては、サフ ァイヤ素材そのものの品質を向上させるプログラムを進める研究とレーザー干渉計鏡 としての品質向上のための開発研究に分けられる。これらは、結果として相補的ではあるが、 初期の研究は 独立に進められるものである。前者では直径が 30 cm にも上るサフ ァイヤの単結晶を生成する研究が主眼と なる。

  このために必要な設備は、清浄な真空融解炉の建設と精密な温度制御機構の作製である。 後者の研究のためには、研磨・成膜されたサファイヤの検査・評価装置であり、 最終的にはレーザー干渉計に装着して性能評価が行われる。




   [年次計画]


平成 14 年度

民間と共同で大型アルミナ真空融解炉を開発し、高性能サファイア結晶の製作を試みる。また、サファイア 光学品質検査用精密干渉計を開発する。


平成 15 年度

サファイアの吸収ロスによる発熱と、熱レンズの効果を抑えるための精密高温度制御装置を開発する。 また、サファイヤ複屈折検査用光学系およびサファイヤ品質検査画像処理装置を製作し、複屈折の2次元分布を計 測する。


平成 16 年度

サファイヤ材料評価法とサファイヤ鏡評価法を確立する。この技術を低温レーザー干渉計プロトタイプ用ミ ラーの製作に活用する。


平成 17 年度

サファイヤ鏡の総合評価を行う。