計画研究ク : 重力波天文台用高性能光源の開発



       [研究組織] 

   氏名 所属 ・職 専門 役割分担
代表 三尾 典克 東京大学 ・ 大学院新領域創成科学研究科 ・助教授 精密計測学 レーザー共振器の設計、試作
分担 森脇 成典 東京大学 ・ 大学院新領域創成科学研究科 ・助手 光学実験 干渉計によるレーザー光の安定度評価




   [研究の概要と目的]


 現在、建設が進められている大型装置の規模は、干渉計の長さがキロメートルに及び重力波天文台として十分なものではあるが、感度を決める雑音に関しては、まだこれから研究 ・ 開発をすすめなければならない。特に、問題となるのが光源の出力で制限されるショット雑音である。 この雑音は光源の出力の平方根に反比例するので高い感度を実現するためには高出力のレーザーが必要である。
 
 現在世界中で建設中の干渉計の光源は、出力が 10 W 程度で、このレーザーを使えば、当面の観測を行う感度 (数年に1 回程度、イベントが観測でき ると期待されるレベル) を実現できることになっているが、天文学を行うためには不十分である。 そこで、次世代の検出器では、出力を 10 倍増やして、100 W クラスの出力をもつレーザー光源が必要とされている。 出力を 10 倍増やすことにより、1ヶ月に数回のイベントが観測できるので、天文学として成立する。このような次世代の検出器ができたとき重力波天文学が始まるのである。

  本研究はその鍵となる技術の完成を目指すものである。ここでは、100 W のレーザー発振を実現するため、以下の手法を提案する。 1. 1 W クラスの単一周波数レーザーを源発振器にし、注入同期を利用して 20 W クラスの出力を得る。 2. その出力を飽和増幅器によって、パワーをあげる。3. 多段の飽和増幅器を連ねることにより、100 W のパワーを実現する。 そして、 最終的に、 出力光の安定度に関する特性評価を行う。

 今回の計画では安価で品質の向上した半導体レーザー (LD) を多用することにより、励起パワーに対する制限を緩め、レーザー全体で余裕をもたせた設計を第一と考え、長期的な安定度や保守性まで含め、重力波天文台を実現するための光源作りを目指す。





  [年次計画]


平成 14 年度

20 W 出力をもつ単一周波数発振の注入同期レーザーの製作を行う。 重要な点は、共振器を作成するときに、レーザー結晶内で発生する熱複屈折の効果を取り除くことである。 そのため、 特殊な共振器を設計する。 注入同期のシステムを作成し、単一周波数発振を実現させ、発振の安定性を評価する。


平成 15 年度

20 W レーザーに関しては、発振光の安定度の評価を行う。強度、周波数、 モード、偏光状態の測定を行い、最高出力が得られるように系を最適化する。 また、飽和増幅用のレーザーモジュールの特性試験を行う。そして、まず、 小信号利得特性 (振幅安定度、 位相安定度) の評価を行う。


平成 16 年度

単一周波数発振のレーザーを使って、増幅実験、およびビート測定による位相安定性の試験を行う。 そして、このモジ ュールで飽和増幅器を試作し、2 つのシステムを結合し、 出力の最適化を図る。


平成 17 年度

最終的に得られた光を小型マイケルソン干渉計や光共振器に入射し、雑音特性の評価をする。 このモジュールを多段構成にして、光増幅の安定度を段階的に評価する。