計画研究エ : 低温懸架系の開発



       [研究組織] 

  氏名 所属 ・職 専門 役割分担
代表 新冨 孝和 高エネ機構・低温工学センター・教授 低温工学 研究統括 ・ 推進
分担 春山 富義 高エネ機構 ・ 素核研 ・ 助教授 低温工学 低温システム設計
分担 東 保男 高エネ機構・工作センター・助教授 精密計測 微小振動計測
分担 鈴木 敏一 高エネ機構・加速器研究施設・助手 重力波実験  低温実験
分担 佐藤 伸明 高エネ機構・素核研・助手 素粒子物理学実験 アクチュエーター開発
分担 内山 隆 学術振興会・特別研究員 重力波実験  熱雑音計測




   [研究の概要と目的]


 現在の干渉計型検出器は標的とする中性子連星の合体の特徴に合わせて 100 Hz〜1 kHz が観測帯域になるよ うな設計にな っ ているが、 このうち 100 Hz〜500 Hz 付近で検出器感度を決めているのは干渉計の鏡と鏡懸架 の熱雑音である。

 干渉計型検出器の研究が進むにしたがって干渉計型検出器においても熱雑音は深刻な問題 であることが明らかにな っ てきた。 そこでこの周波数領域での検出感度向上のために鏡周辺を極低温に冷却 することにより熱雑音の低減を図る研究を進めてきた。 室温 (300 K) で動作するこれまでの干渉計型重力波検出器の設計では鏡と鏡を吊 っ た振り子の振動の Q 値 を大きくすることで熱雑音の影響を避ける。 振動系の Q 値を大きくしても、 系が熱平衡状態にあれば全エネルギーは等分配則から変わらない。 Q 値が大きいと周波数領域で共振点付近に熱振動のエネルギーが集中す るため、 共振から遠い裾の振動レベルは下がる効果がある。 そのため重力波検出器の観測帯域に共振が含ま れなければ振動の Q 値を大きくすることによって熱雑音の影響が抑えられる。 それに加えて、 冷却によれば、 系に分配されるエネルギー自体が低下する。 また適当な材料を選べば低温化によ っ て Q 値が増大する副次効 果も期待できる。

 これまでの研究で (1) 高出力レーザーの照射の下でも干渉計の鏡を十分低温に冷却できること (2) サフ ァ イアーの鏡を 20 K 以下に冷却すれば大きな Q 値 (=3x108) が達成できること 18 (3) サフ ァ イアーの吊り糸は低温で大きな Q 値の振り子を造りうること (4) 常温部と共通の真空系を持つ低温鏡での表面汚染の問題は回避できること を示してきた。 上記のように原理的レベルでは、 低温鏡の導入で従来の干渉計型重力波検出器より 1 桁以上の感度向上が 期待できる。

 これで低温鏡周辺の熱流路の基本構成は決ま っ たとい っ てよいが、 低温鏡を実際に干渉計型重 力波検出器で使うためには懸架系の開発が不可欠である。 その為に必要な研究項目として以下のものが上げ られる。
  1. 地面振動の防除
  2. 寒冷源と振り子支持点の間に十分な防振性能がある熱の流路を設けること
  3. 低温環境において安定に動作する鏡の位置制御機構の開発

  本計画研究 「低温懸架系の開発」 においては将来の長基線干渉計型重力波検出器で実際に低温鏡を組み入 れる為に必要な低温鏡懸架系のシステムとしての完成を目指す。 そして、 低温鏡の効果を実証し、 低温鏡懸 架系のシステムとしての動作確認のため冷却による熱雑音低減の観測を行う。






   [年次計画]


平成 14 年度

初年度に要素項目の基本的な開発を行い、 クライオスタットに組み込むための設計を行う。 また、 現在のクライオスタ ッ トの冷却/昇温の時間を短縮するための改造も行う。



平成 15 年度

防振系開発を軸に要素項目をクライオスタットに組み込むと同時に、 熱雑音の微小変位を計測するための極小基線長ファブリー ・ ぺロー干渉計の開発と、 光学系の設計を行う。



平成 16 年度

3 年次はクライオスタットと計測光学系の試運転、 計測系の整備を行う。



平成 17 年度

4 年次は冷却による熱雑音低減の実証実験を行う。



 本研究に必要とされる大型低温設備のほとんどは高エネルギー研 ・ 低温工学センターの既存設備として整っており、 大規模の低温実験を行う環境として最適である。 また、 高エネルギー研 ・ 工作センターは加速器、 高エネルギー物理実験関連の精密機器加工の経験と設備を備えており、 これらの施設を利用することが最も効率的な方法である。 従って研究拠点は高エネルギー加速器研究機構に置く。