計画研究ア : TAMA300による重力波探査
[研究組織]
氏名 所属 ・職 専門 役割分担 代表 藤本 眞克 国立天文台 ・ 位置力学 ・ 教授 宇宙計量学 研究統括 ・ 推進 分担 高橋 竜太郎 国立天文台 ・ 位置力学 ・ 助手 相対論実験 観測実施の立案 分担 新井 宏二 国立天文台 ・ 位置力学 ・ 助手 重力波実験 TAMA300の改良と整備 分担 山崎利孝 国立天文台 ・ 位置力学 ・ 助手 天文計測 観測データの取得と管理
[研究の概要と目的]
基線長300mの重力波検出用高感度レーザー干渉計TAMA300を用いて、観測装置としての性能や観測技術の向上をはかりつつ、銀河系近傍の重力波探査を実行することが研究目的である。
TAMA300 は、新プログラム方式による研究 (「高感度レーザー干渉計を用いた 『重力波天文学』の研究」:平成 7 年度〜平成 13 年度、研究リーダー : 古在由秀 ・国立天文台・名誉教授) により国立天文台三鷹構内に建設され、平成 11 年夏に世界の同タイプの大中規模計画に先駆けて運転開始した重力波検出装置である。
その後、感度と安定性の向上を図るために、雑音源や不安定動作の原因の同定およびそれらへの対策用改良を繰り返してきている。地道な改良 ・ 調整の試行錯誤を繰り返した成果として、TAMA300 の感度は 1 年間で約 2 桁向上し、世界最高感度を実現している。また、その安定性もめざましく向上し、 多数の制御系が込み入った複雑で敏感なシステムであるにも関わらず、1 日のうち 23時間以上の観測運転や半日以上に及ぶ連続運転が可能になっている。実際、 平成 12 年夏には 2 週間の重力波探査観測を試み、 世界最高級の感度で目標を上回る 160 時間以上の観測データが得られている。
本計画研究では、 これまで行ってきた感度と安定性向上のための改良と調整実験を継続しつつ、 銀河系近 傍で発生する可能性がある超新星爆発や、連星系 (MACHO、 中性子星) の衝突 ・ 合体からの重力波検出を狙ってできるだけ長時間の探査観測を実行する。 それにより、レーザー干渉計を実用可能な重力波観測装置に磨き上げるためのノウハウや、 長時間にわたって観測を実行するための諸技術を、世界に先駆けて獲得できると期待される一方、 我々の予想を超える天体現象を発見できる可能性もある。また、研究期間中に稼働開始予定の米国 LIGO 干渉計 (基線長 4 km と 2 km) や英独合同のGEO600 (基線長 600 m) と同時観測運転を行 っ て、 重力波が検出された場合の確証を与えるとともに、将来の国際的重力波観測網形成に備えた運転技術やデータ解析法 (計画研究イ) の開発と経験に資する。
同時観測終了後は、特に低周波領域の感度向上をはかって、研究計画キで開発される低周波防振装置を組み込んだ後に、 ふたたび長期の重力波探査観測を行う。これは、外国の装置でも計画されている感度向上のための大改造をそれらに先駆けて行う計画であり、 我が国で計画している大型低温重力波望遠鏡に同種の装置を組み込む際のノウハウの獲得と技術的問題の解決に貢献することになる。
以上のように本研究計画は、現時点で重力波検出用レーザー干渉計として世界のトップに立ち、唯一稼働しているTAMA300 を用いて、 重力波観測を実現するために必要な、 装置の理解と改良を進め、 計画研究イと共に装置運転・状態診断・データ取得と処理および解析といった観測技術全般の力量を高めながら、突然の重力波発生に単独の装置あるいは国際観測網の一員として備えるべく重力波探査の観測運転を実施するものである。
[年次計画]
平成 14 年度
TAMA300 運転の自動化を進めつつ、半年間の観測運転によって神岡 20 m 干渉計との同時観測データを取得
する。その後、高利得リサイクリングミラーを導入する。
平成 15 年度
高利得のリサイクリング干渉計を調整してさらなる高感度化を行うとともに、 遠隔からの干渉計運転を可能にして動作状態を即時把握できるように観測システムの改良を行う。 後半は TAMA300 の観測運転を行い、LIGO 等の外国の装置との同時運転を実施する。
平成 16 年度
同時観測運転をさらに約半年間継続した後、後半は干渉計への低周波防振 SAS の導入を行う。
平成 17 年度
SAS 導入後の干渉計の調整と評価を行う一方、制御系のデジタル化を進める。 その後、低周波帯で高感度化されたTAMA300による観測運転を実施する。